まるさんの資料置場

本に囲まれ 資料に埋もれ。。。じゃ、紙の削減ね。

扇谷日記 島木健作 著

九月十一日 曇又晴

朝夕は浴衣の上に何か羽織らねば寒さを感ずるようになった。数日来の発熱の気味があって、わずかの涼風にもぞくぞくするような不快を感じていたが、今日は平常に復したようである。腹はなおゆるみがちである。

 

夜来、柿の実が落ちる音を何度か聞いたので、庭へ出て、落柿をたずねた。生け垣の根もと、落葉のなかなどに数個ひろった。老母が見過ごしてすでに腐れかけているのなどもあった。我が家ではこれらの落柿はすべてかめのなかに貯えて、柿酢をつくることとしている。李朝の壺のなかはすでに発酵していいにおいを発している。

 

新刊の書を買おうとする気も、読もうという興味も全然ない。本は今家にあるものをぼつぼつ読むことで足りるのである。昔読んだ古い本を再読することの方がたのしくもあり、有益でもある。長くかかってトルストイ全集を再び読み上げるつもりで、この数日少しずつ読んでいる。二人の軽騎兵、アルベルト、ルツェルン、三つの死、ポリクーシカ等を読んだ。ルツェルンでは、イギリス人の性格の特徴を、数行の鋭い言葉で衝いている。

 

夕方散歩に出た。錦屋酒店のわきの道から這入って、善福寺の前へ出る道を一巡りして帰った。道々、柿の実がおびただしく道路に落ちて空しく腐っているのが目についてならなかった。

 

妻は葉山の友人宅へ行き、新鮮な魚を土産にもらって帰ってきた。久方ぶりにうまい秋鯖の塩焼きを食った。